建築学部開設記念 レクチャーシリーズ 1
No.2 グエナエル・ニコラ氏 講演会
「FUSION」
工学院大学は、本年4月に開設した日本初の「建築学部」の開設記念講演会として、建築学部の幅広い教育研究領域を代表する気鋭のプロフェッショナルを外部から講師に迎えて、レクチャーシリーズを開催しています。
第2回目となる今回のレクチャーは、5月27日(金)18時より新宿キャンパス・アーバンテックホールにて、建築・インテリアからプロダクト、パッケージデザインまで、シームレスに活動されているフランス人デザイナー、グエナエル・ニコラ(Gwenael Nicolas)氏を講師として開催しました。会場には、本学建築学系の学生をはじめ、建築・インテリアの分野のプロの方やビジネスマンも多く来場され、約150名の参加者が集まりました。
ニコラ氏は、アートとも呼べる光をテーマとしたインスタレーションでも各国で話題を呼んでいる、今とても注目されているデザイナー/アーティストです。 1991年の来日以来、すでに日本において20年に渡り多彩な活動をされています。
今回の講演では「FUSION」をテーマに、ご自身の代表作である、ユニクロメガストアや日経メディアウォールをはじめ多数の作品を具体的な題材にしながら、その作品の企画や制作におけるエピソードや体験談などを交えて、デザイナーとしての独創的な発想や仕事の取り組みを熱く語られました。
ニコラ氏の語り口は、フランクでわかりやすく、そして情熱的で、デザイナーとして第一線で精力的に活躍されている、その秘密を感じられる講演となりました。参加者は約1時間半のプレゼンを大変興味深く聞き入っていました。
講演の後には、本学建築学部の飯島直輝教授と、冨永祥子准教授が参加してトークセッションがあり、また会場の参加者からの質問を受けて、予定時間を越えて活発に回答をされました。
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開催日時 | 2011年5月27日(金) 18:00~※終了しました |
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会場 | 工学院大学新宿キャンパス 3階 アーバンテックホール(アクセスマップはこちら) | ||||||||||
講演テーマ | 「FUSION」 | ||||||||||
講演者 | グエナエル・ニコラ
Gwenael Nicolas (デザイナー・Curiosity代表) ![]() -プロフィール -
建築インテリアからプロダクト、パッケージデザインまでシームレスに活動。アートとも呼べる光をテーマとしたインスタレーションは各国で話題を呼ぶ。 -代表作 - ユニクロメガストア 日経メディアウォール、カネボウセンサイスパ、MIXX バー& ラウン ジ、SWAROVSKI クリスタルパレス、LIGHTLIGHT 、レクサスRX ミュージアム |
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お問合せ先 |
工学院大学 建築学部開設記念講演会事務局 電話番号:03-3340-0140 メール:infokenchiku●cc.kogakuin.ac.jp(●を@に直して送信してください) |

東京に来た理由
アイデアを持っている人は磁石のようなもの。その人のアイデアにエンジニアや技術者が集まる。もともと日本の伝統文化には興味がなかった。伝統文化がわからないし、わかりにくい。フランスからきたのは、東京に興味があったから。東京で未来をつくりたかった。プロダクト、カメラ、車などのデザインを通じて。
BUTSUDANは最初に請けた仕事。クリスチャンなので仏壇を見たことなかった。仏壇屋でサイズや価格を知りショックを受けた。形をつくるだけでなく、開く時のストーリーが生まれるよう、レイヤーを組み込んだ。
デザインを先に出して可能性を示す
DISNEYMOBILEは、プロダクト、パッケージ、店舗にまたがるデザイン。ディズニー商品によくある派手な色づかいではなく、モダンな黒を使った。パッケージは楽しさを演出し、仏壇のときと同じ考え方で開ける時にストーリーを持たせた。買った後で捨てられないようにしたかった。シークエンスやストーリーでどうコミュニケートできるかを考えている。携帯電話は基本的にスペックがすべて決まっているので、デザインでやれることは少ないのだが、クオリティの高いものをつくりたかった。クライアントの初回インタビュー時に、まだ要求されていないパッケージや店舗などのデザインをつくって持って行った。クライアントの期待より早めにデザインを出すことが重要。止められるかもしれないが、意外と通ることも多い。デザイナーとはみんなが考えられないアイデアを出し、可能性を示さないといけない。学校の課題のように、オリエンテーションの範囲内でデザインをまとめるのは、何か物足りなくてつまらない。コンペは要項通りではなく、好きなことをやればよいと思っている。日本は、技術的にもできるところが海外と違う。
UNIQLOMEGASTORESHINJUKUでは、オリエンテーションで売り上げ目標2日間で5億円という条件が出され、あとは自由にデザインを任された。銀座の街に見られるような、ウィンドウショッピングの時代はもう終わっていて、多くの人はインターネットで商品を見ている。新宿は視覚的にうるさい街なので、昼間は真っ白のファサードにして逆に目立たせた。鏡を貼ってさらに広く見せる。結果的に、売り上げは予想の1.5倍になった。
UNIQLOMEGASTORESHIBUYAは、中は小さいが外を大きく見せるデザインで、プレゼンの時にばかでかい模型をつくって、オリエンテーションと違った提案を行なった。
UNIQLOGINZASTREETは銀座の新しい道がコンセプト。交差点のイメージなので、床に横断歩道のグラフィックを描いた。ファサードにドアをつくらなかったので、人が入り過ぎた。
NIKKEISHINBUNMEDIAOBJECTでは、2階エスカレーター奥のスペースについてデザインを依頼されたが、結局そこは何もせずにロビー全体に、新聞が印刷されていくときのイメージをオブジェ化したものを提案した。長さ180m高さ2.5mのメディア・オブジェクト。技術者も面白いことをやりたいと思っている。180mをシームレスでつくるという無茶な依頼を施工側に伝えたら、そのとおりにやってもらえた。日本ではお願いしたらなんでもできる。ただし、面白くないことはやってもらえない。
見たことのない家具
CASSINAIXC./BOOMERANGSERIESは家具のデザイン。11cmの厚みでできたシンプルなソファをデザインした。直線の空間にこのソファを置くことで、少し動きが出てくる。テーブルはソファとのバランスが悪くなりがちで難しい。ここではアクリルを使って透明で見えないテーブルをつくった。意外と売れている。フランスの実家には57脚もの椅子があったので、見たことがない家具をつくりたかった。
TOKYOFIBER‘SENSEWARE’は繊維会社とのコラボレーションでベンチをデザインしたもの。人がいるときに光るため、必要なところは見えて、必要ないところは見えないようになっている。機械ではつくれないので、ファイバーのメッシュをハンドメイドで制作した。
新しい世界を体感する展示
LEXUSRXMUSEUMはイベント会場のデザイン。新しい世界を体感する展示をつくろうとした。エントランスはロゴだけを浮かび上がらせて、ファイバーの中に車がある状態。車は小さく見えるようにしてほしいという依頼だった。すべてを光のラインと車のラインとでコネクトしている。高級車のイベントにしては、クレームもなくうまくいった。
LIGHT-LIGHTMILAN/TOKYOはミラノと東京で行ったイベント。ギャラリースペースのなかに100個のライトが浮いている状態。写真を撮れない、写真だけでは経験できないものをデザインしたかった。プログラムで光と風をコントロールした。
SWAROVSKICRYSTALPALACE2010"SPARKS”では部屋の中に長い1本のラインで、LEDが発光しクリスタルが光る。4000個のクリスタルをステンレスパイプに取り付けた。プログラミングによって光を変化、移動させる。2008年にロンドンでプレゼンしたときには、技術がなく実現できなかったが、その後技術が発展し実現可能になった。好きなことをやって、あとで技術が発達するのを待つというやり方もありだ。できそうになくても、いいアイデアがあれば出した方がよい。
INTERNIMUTANTARCHITECTURE"SUSPENDEDCOLORS"はミラノでのインスタレーション。すごく古い建物の中庭に、ファイバーでアーチを連続させたものをつくった。高さ7m。既存建物のアーチを意識している。風で動くほど軽い。頑丈なストラクチャーをつくりたくはなかった。自然と一緒に動く建築を考えている。
デザイナーではなくカスタマー
プレゼンとは、相手にプレゼントすること。ポートフォリオをいろいろなところに送ったが、返事がまったく来なかった。戦略を変え、かっこいい小さなパッケージに種をいれ、「一緒に仕事をしたら、この種が大きくなります」というようなメッセージをつけて送ったら、30人に送って22人から返事がきた。そこからようやく話をすることができる。デザインを送ってアクションしなければならない。
HOUSE2003-2005は自邸のプロジェクト。建築をつくるプロセスとして、普通はまず土地を探してから設計をするが、これはデザインしてからそれに合う土地を探した。どんな生活をしたいかを考え、ガラスボックス+スロープ(階段が嫌いなので)で構成した。床は20mmの鉄板とフローリングだけで、スロープから内部が見える。トイレットペーパーからトイレの水まわりをデザインしていった。キッチン、トイレ、レンジフード、水洗などは、デザイナーではなく、企業の商品のカスタマーでもある。メーカーのプライドでファサードは一枚のガラスで実現できた。キッチンフードなどはオリジナルでつくっている。
DREAMTELIGNECEは夢のある、意味のあるデザイン。周囲の木にワイヤーを張って吊った家の構想。900kgのアルミでできている。アラップ社の金田充弘さんによって構造計算は済んでいる。風でぐるぐる回り、風水、季節の木々、風景に合わせて方向を変えられる。このアイデアからさらに、設備は?家具は?水は?構造は?といった問題が出てくるが、ひとつひとつ問題を解決していく。水まわりには新幹線の技術を使っている。
対談 グエナエル・ニコラ×飯島直樹×冨永祥子
プロダクトと建築の精度の違いにびっくりした。プロダクトは考えたものがそのままでき、建築は設備・電気系統の問題のため、模型や図面との違いが生じる。
技術的に日本だからできることが多い。インテリアという閉じられたジャンルに興味はない。いい建築にインテリアはいらないとも思っている。