建築学部開設記念レクチャーシリーズ

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建築学部開設記念 レクチャーシリーズ 2
No.7 山崎 亮(やまざき りょう)氏 講演会
「コミュニティデザイン」

 工学院大学では、今年4月の「建築学部」開設を記念し、当学部の幅広い教育研究領域を代表する気鋭のプロフェッショナルを外部から迎え、多くの方々にお楽しみいただけるレクチャーシリーズを開催しています。

 10月よりスタートした後期シリーズの第三弾は、ランドスケープデザイナー・コミュニティデザイナーである山崎 亮氏をお招きし、「コミュニティデザイン」をテーマにご講演いただきます。

第7回建築学部開設記念レクチャーシリーズ 山崎 亮
開催日時

2011年12月17日(土) 18:00~※終了しました

会場 工学院大学新宿キャンパス 3階 アーバンテックホール(アクセスマップはこちら
講演テーマ 「コミュニティデザイン」
講演者
山崎 亮

Ryo Yamazaki (ランドスケープデザイナー・コミュニティデザイナー)

Ryo Yamazaki

-プロフィール -

○1973年生まれ。愛知県出身。studio-L代表。京都造形芸術大学教授。地域の課題を地域に住む人たちが解決するためのコミュニティデザイ ンに携わる。まちづくりのワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザイン、市民参加型のパークマネジメントなどに関するプ ロジェクトが多い。2010年度は「海士町総合振興計画」「マルヤガーデンズ」「震災+design」でグッドデザイン賞、「こどものシアワセをカタチに する」でキッズデザイン賞、「ホヅプロ工房」でSDレヴュー、「いえしまプロジェクト」でオーライ!ニッポン大賞審査委員会長賞をそれぞれ受賞。

○著書『コミュニティデザイン(学芸出版社)』、『ランドスケープデザインの歴史(学芸出版社:編著)』『震災のためにデザインは何が可能か(NTT出版:共著)』など。

ホストスピーカー
倉田 直道

Naomichi Kurata(工学院大学建築学部まちづくり学科教授)

遠藤 新

Arata Endo(工学院大学建築学部まちづくり学科准教授)

お問合せ先
工学院大学 建築学部開設記念講演会事務局
電話番号:03-3340-0140
メール:infokenchiku●cc.kogakuin.ac.jp(●を@に直して送信してください)

summary

人口2300人の離島で総合計画をつくる

 市街地系のプロジェクトと離島系のプロジェクト、両方のプレゼンテーションを用意してきた。どちらを聞きたいか?(客席の聴講者がそれぞれ挙手) 離島系の方が多いようなので、今日はそちらの話をする。
 島根県の海士町は隠岐諸島にある人口2300人の町。2007年、町長に呼ばれて、町の総合計画づくりに携わった。この町には都会から来るIターン者、Uターン者の住民が増えていて、その意味では成功していると目されているが、地元継続居住者との間に溝があり、関係がぎくしゃくしていた。3者をうまくつないでいけるような総合計画づくりをしてほしい、と町長から言われた。

住民チームが競い合うワークショップ

 住民参加で総合計画をつくるため、80人の町民に集まってもらった。メンバーを「ひと」「暮らし」「産業」「環境」の4つのテーマでチームに分けた。各チームは、Iターン者、Uターン者、地元継続居住者の比率や、年齢、男女比などがなるべく同じになるようにしなければならない。なぜかというと、お互いに競い合えるから。例えば年齢に差があると、若者チームがインターネットでブログを始めても、年寄りチームは「自分たちには関係ない」と思ってしまう。隣のチームが何かを始めたら、こちらもやらなければと感じて欲しい。そこで、自分たちの意志でチームを選んだけれども、結果的にバランスよくメンバーの属性が分かれるよう、テーマを決めた。実は初回のワークショップで、それぞれの参加者の関心をこっそりつかみ、テーマを逆算して導き出したのだった。
 公式に実施したワークショップは8回。だが非公式には40回以上も行っている。ワークショップは難しいものではない。やり方を伝えたので、3回目からは自分たちでもできるようになった。最後、総合計画のタイトルを決める時には、2泊3日の合宿をやったりもしていた。

実施する人数別にまとめたプロジェクト集

 完成した海士町総合計画の本編には「島の幸福論」とタイトルが付いている。海士町と東京で、それぞれ幸福の度合いをレーダーチャートに示すと、海士町は学力や所得の面で東京に劣る。しかし何のために勉強し、お金を稼ぐかといえば、環境のよいところで、少しでも広い家にすみ、新鮮な食べ物を食べたいからだろう。それらを海士町の人は手に入れているのではないか。東京の人がうらやましがる幸福が、ここには既にある。それをどう生かしていくのか、それをこの計画では言おうとしている。
 本編のほかに分厚い別冊をつくった。こちらはワークショップの各チームが提案してくれたプロジェクトをまとめたものだ。産業チームが提案した「鎮竹林(ちんちくりん)」は、手入れをしないとどんどん広がっていく竹藪を、整備しながら竹炭や竹細工をつくっていく事業。ひとチームが提案した「海士人宿(あまじんじゅく)」は、島の人たちが集まれる交流拠点をつくるというプロジェクト。イタリアで料理修行した住民が1日限定のイタリアンレストランを開業したりしている。暮らしチームは、シャイな住民に声をかけて様々な催しに来てもらう「お誘い屋さん」をプロジェクトに。環境チームは島内の湧き水を調査する「水を大切にプロジェクト」を提案した。この活動は全国名水サミットの開催運営にもつながった。
 各プロジェクトには、それを実施するには何人が必要かが記されている。「1人でできること」は1人でさっさと始めればいい。「10人でできること」は10人集まったらやればいい。「100人でできること」「1000人でできること」は行政に少し協力してもらってやる。この人数ごとに、プロジェクトは章を分けて掲載した。なぜ人数を強調したかというと、プライベートとパブリックの中間にコモンという領域があるということを、自然に理解してもらいたかったからだ。

集落へのケアを継続的に行うために

 80人で始まった総合計画づくりは、次第に仲間が増えて、まちづくりの担い手が300人くらいにまで増えた。彼らはもう、僕が何もしなくても、自分たちで楽しいことをやり始めている。「うまくいきましたね」と言ってくれる専門家もいるが、住民のうち2000人はまだかかわっていない。高地の集落にいて平場になかなか出てこられない年寄りもいる。そうした人たちへのケアをやらなければならない。それを去年から始めている。
 それぞれの集落で住民にヒアリングをして、特徴をレーダーチャート化した。人口や高齢化率などの指標は悪いが住民のやる気は高い集落がある。客観データだけでは限界集落かどうかはわからない。一方その逆に、指標は悪くないが住民のやる気がなくなっている集落もある。息子にはもう帰ってくるなと言った、墓も整理してしまった、そういうところで無理に活性化と叫んでも、問題を先送りするだけ。我々は判断材料を提供するが、最後に決断するのは集落の人たち自身である。
 集落の支援には細かなケアが必要となる。14の集落に7人の集落支援員を送り込んだ。支援員のうち1人は我々の事務所のスタッフ。残りは東京と海士町の両方から公募に応じて来てくれた人である。
 総務省の制度では集落支援員に給料が出るのは最初の2年間のみ。続けていくには、起業してお金を稼いでいかなければならない。ネタはある。集落を回る際、蔵や空き家に残る物品を無料でもらい受けるのだ。それらのなかには、少しレトロでデザインがかわいいものがたくさんある。それらを修理し、きれいにして販売しようというアイデアである。試しに売ったら、非常に好評だった。

大事なのは楽しみながらやれること

 これからの地方自治体は、財源も増えないし交付税も減っていく。「お客さん市民」を増やしても成り立たない。行政が自分たちで全部やるというのは無理。税金ではなく別の形で住民に支えてもらわないといけない。かつては道普請といってみんなで道路の手入れをやっていた。そうやって仲間になっていく。
 大事なのは楽しみながらやれること。自分がやりたいこと、自分にできること、そして社会が求めていること、この3つを重ねてプロジェクトをつくっていく。どれか2つだけだと長続きしない。誰かが求めていることを、自分たちがやれること、やりたいことと結びつけていく。住民参加型のプロジェクトでは、それが非常に重要だ。

対談 山崎亮×遠藤新

遠藤空間デザインとコミュニティデザインとの関係は?
山崎コミュニティデザインの意味も変わってきた。1960年代はコミュニティを育む住宅団地やセンター施設などハードの設計のこと。80年代はハードをつくるためにコミュニティの意見を採り入れましょうという態度のこと。今はハードをつくらなくてもコミュニティデザインができる。
遠藤今日の話でコミュニティデザインの面白さが伝わったと思うが、どういう職業につけばこういうことができるのか。どういう勉強をすればいいのか。
山崎「働く」ということは「端」を「楽」にすること。働く以上は誰が何に困っているのか、課題を発見する能力が重要。それに対してオリジナルな解決策を示せれば「どうもありがとう」と言って、対価を払ってくれる。逆に「オレはこれがつくりたいんだ」といってつくり続けても「働く」にはならない。それは趣味。集落なら、まずそこに入って課題は何かを聞いていく。これを体系立てて整理できれば、「よし、ここを解決すれば全体うまくいく」というところをつかめる。
 こういうプロセスは、実は建築の設計でやっていることとほとんど変わらない。だからぜひとも建築学部で建築をしっかり学んでもらいたい。設計演習で絡まり合った事情を統合化させていくレッスンができる。住宅の設計なら、父親はこう言う、母親はこう言う、敷地はこうで、容積率はどうで、という問題群を最後は美しく解いていく。これを形に定着すれば建築物になる。一方、形ではないところで解いてビジョンを示せれば、これはソフトの方で建築しているとも言える。