建築学部開設記念レクチャーシリーズ

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建築学部開設記念 レクチャーシリーズ 5
No.14 西沢 大良(にしざわ たいら)氏 講演会
「現代建築のつくり方」

工学院大学では、2011年4月の「建築学部」開設以来、一流のプロフェッショナルにお話しいただくレクチャーシリーズを開催しています。
第14回は西沢大良氏をお迎えします。
参加費無料でどなたでもご来場いただけます。奮ってご参加ください。

第14回建築学部開設記念レクチャーシリーズ 西沢大良
開催日時

2014年11月18日(火) 19:00~21:00(開場18:30)※終了しました

講演テーマ 「現代建築のつくり方」
会場 工学院大学新宿キャンパス 3階 アーバンテックホール(アクセスマップはこちら
定員 250名(事前申込による先着順)
入場料 無料
講演者
西沢 大良

Taira Nishizawa (建築家、芝浦工業大学建築工学科教授)

Taira Nishizawa

- プロフィール -

1964年東京生まれ。東京工業大学卒業、1987~93年入江経一建築設計事務所勤務、1993年西沢大良建築設計事務所設立。現在、芝浦工業大学建築工学科教授。

- 主な作品 -

諏訪のハウス(1999年)、砥用町林業総合センター(2004年)、駿府教会(2008年)、沖縄KOKUEIKAN(2006~09年)、宇都宮のハウス(2009年)、今治港再生事業(2009~現在)、直島宮浦ギャラリー(2013年)

- 主な受賞 -

AR-AWARDS最優秀賞(英国・2005年)、JIA新人賞(日本・2006年)、BARBARA CAPOTINE最優秀国際建築賞(イタリア共和国・2007年)、ART&FORM最優秀賞(米国・2009年)

- 作品集 -

西沢大良1994-2004(TOTO出版)、西沢大良木造建築集2004-2010(INAX出版)

ナビゲーター
樫原 徹

Toru Kashihara(工学院大学建築学部建築デザイン学科准教授)

主催
工学院大学
お問合せ先
工学院大学 建築学部開設記念講演会事務局
電話番号:03-3340-0140
メール:infokenchiku●cc.kogakuin.ac.jp(●を@に直して送信してください)

summary

 現代建築は近代建築とは異質なものになりつつあります。どのように異質なのかと言うと、第一に現代建築は、人工的な産物であるだけではなく、自然界の産物のようになりつつあります。第二に現代建築は、現実的な存在であるだけではなく、魔術的な存在になりつつあります。第三に現代建築は、世の中のモノの数の多さに応えるだけでなく、種類の多さにも応えるようになりつつあります。以上の3 つの特徴について、自作をたたき台に説明します。

人工的かつ自然的

 2つ作品を紹介します。1 つ目は熊本県砥用町(現・美里町)の町営の体育館、砥用町林業総合センターです。林業の町なので、地元の杉材を使った木造建築にする必要がありました。敷地の周辺環境は、山々に囲まれた自然環境ではありますが、よく見るとそれだけではないです。敷地は巨大な造成地の上の一区画でもあって、周辺は人工的な環境でもあるのです。だから、「人工環境であり自然環境でもある」というコンテクストに応えるために、森の茂みのような立体を材木でつくったらどうかと最初に考えました。
 九州の杉は柔らかく、湿気にも弱いため、木を外周面から数十センチ室内側へセットバックさせています。外周にはマリオンを兼ねた軽量鉄骨の細い柱を立てて、内側の木の格子壁と緊結していますので、厳密には混構造の建物です。屋根も、軽量鉄骨のグリッドが最上層にあり、直下の木の構造と緊結しています。施設は基本的に3つの部屋に分かれていますが、どの部屋も中央部は天井高がほしいので上空のトラスせいを小さくし(強度は弱くなる)、部屋の外周部は天井高がなくてよいのでトラスせいを大きくして(強度は強くなる)、弱いところと強いところが互いに支え合うようにしています。出来上がった架構を見ると、上空に3つピークが見えますが、それはこの架構が3つの部屋のために設計されたからです。
 近代建築の構造の良くない点は、どんな敷地でも、あるいはどんな施設用途でも、同じ構造体でかまわなくなってしまうことです。周囲が海でも街でも同じ構造になり、博物館でも市民ホールでも同じ構造が成立してしまって、違った構造にすべきというロジックがない。それは思想として間違っていると思います。たしかに力学(近代物理学)はどこでも同じなのですが、それを建築の構造に応用する場合は、もっと周辺環境や施設用途の違いを反映できるように改良しないとマズいです。ニューヨークでも東京でも同じ構造を目指すといった考え方ではなく、その土地ごと、その用途ごとに毎回違った構造や空間を生みだせるようになった方が、本質的に正しいはずです。
 次に紹介するのは、沖縄KOKUEIKANという商業施設です。設計競技で選ばれましたが、着工直前にストップしたプロジェクトです。ここでは自然の中の気持ちよさを味わえるような商業施設を設計しました。高さ30m の丸い建物で、階数は3 階です。各フロアはなるべく面積を大きくして、階高を高くして、階数を少なくします。ビルの外周にはツタを生やし、ルーバーやガラスなどの素材を使って、お店の上空にツタが見えるようにしています。すると、緑に囲まれて買い物をするようなフロアができます。沖縄は日差しは強いですが、気温は東京よりも低いので、日陰が涼しくて気持ちいいです。ツタは水さえあげれば、表面は常に30 度程度に保たれ、熱輻射を起こすこともないので、空調のコストを大幅に下げることができます。その減額分を使ってツタを生やそうというわけです。
 緑の変化を感じられることは、商業施設にとって非常に重要です。季節が変わると、飲食店ではメニューが変わるし、物販店でも商品が変わります。商業活動というのは自然界に依存しているのだから、季節の変化を感じられるショッピングフロアがベストです。人工環境であり、自然環境も感じられる空間がベストです。

現実的かつ魔術的

 次に、現代建築が魔術的になりつつあるということについて、教会と住宅を例に説明します。最初は静岡にある木造の教会です。礼拝堂の外壁にカンナをかけていない無塗装の割肌板を使い、外壁全体の表面に細かい凹凸をつくることで、光が壁面と並行に差す時刻になると壁面全体に細かい光と影が入り乱れたような状態をつくっています。キリスト教は光の宗教なので、光に反応する外観にするためです。礼拝堂内部の仕上げには無塗装のパイン材を使っています。室内壁面の仕上げの板幅を上に行くにつれて小さくし、すき間を大きくして、壁と天井の懐で音と光を調節しています。基本的には人工照明なしで聖書を読み、マイクやスピーカーなしで説教や賛美歌を聞くための礼拝堂です。
 この空間は、普通と違って光と音が気持ちいいので、工事中には職人さんたちのお昼寝場所になりました。30 人くらいがここに集まって食事をして、何も言わずに昼寝をしていました。気持ちいいからです。今まで近代建築になかった環境をつくると自然と身体が反応します。
 これと同じ考えでつくったのが宇都宮のハウスです。光を通すスラブに覆われた平屋の住宅で、トップライトが3 カ所ついています。朝はベッドルームに光が落ちるようになっていて、昼には、キッチンのシンクに12 時ジャストに光が当たります。この住宅に住むと、朝は光を浴びて目を覚まし、昼はキラキラ光るシンクが遠くに見えて、昼ごはんの時間だと気付く。体内時計を住宅がリセットしてくれるわけです。近代住宅というのは、基本的に世界中を同じ環境につくり変えようとします。夜も昼も、冬も夏も、北海道でも沖縄でも東京でも同じ暮らしをする、その方が機能的で便利だから、というわけです。その結果、近代住宅は自然を排除することになった。しかし、そのような便利さを追求しすぎると、人間が病気になります。朝起きられない、集中力がない、引きこもる、うつになるといった現代病です。住環境を人工的にしすぎると、家の中の最後の自然の産物である人体が、壊れていくわけです。この住宅の場合は、ここに住んでいるだけで、建物が生活リズムを教えてくれて、体調を整えてくれます。

数の多さと種類の多さ

 一般的に近代建築は、1 種類のモノをたくさん集めるときれいになる、という設計手法でつくられています(少種多量)。この設計手法は大量生産時代(モノの種類を減らして数を量産した時代)のニーズにうまく応えました。ただし、現代では状況が一変しています。例えば新宿の街並みを見ると、車や広告など、モノの種類が多いことに気付きます。東京の街並みが見苦しく思えるとしたら、モノの数の多さだけでなく、種類の多さが決定的だと思います(多種多量)。でも、この状況に応える設計手法がまだ存在しないために、設計者がまじめにデザインしても、その空間が機能し始めたとたん、景観としてはモノでごちゃごちゃになってしまう。本来はそうではなく、機能すればするほど自ずときれいになるような空間を設計しなければなりません。
 種類の多さについて、2 つ例を紹介します。1 つ目は、2006 年のミラノサローネでドアハンドルメーカーのユニオンが出展したときの会場構成です。ユニオンの商品は約2000 種類あって、毎年増えていくそうです。2000 種類というのは尋常じゃないので、その種類の多さを展示したいと思いました。光る壁にドアハンドルを並べていくのですが、ゴールドのもの、シルバーのもの、ドット状のもの、ドット状で丸いもの……、というように博物学者のように分類して、なるべく多種類を展示しました。
 2つ目は、深セン・香港都市建築ビエンナーレ(2009 年)のプロポーザルです。深センと香港の広場に1 つずつインスタレーションを設計しました。中国の都市はどこに行っても人が一杯いるので、1 人で都市を眺めることができる展望台を提案しました。足場パイプを使って、香港では高さ30m のピラミッド型の展望台、深センでは高さ30m の球体の展望台をつくります。両者とも1 番上に1人用のパラソルとソファを置き、1 人で都市を眺めるようになっています。中国にはスチール足場だけでなく、竹や木など、たくさんの種類の足場があるので、それらを接ぎ木しながら展望台の立体をつくっています。
 最後にまとめです。これからは近代建築のつくり方を繰り返すだけではなく、現代建築のつくり方も発明していくようにしましょう。ご清聴ありがとうございました。