建築学部開設記念 レクチャーシリーズ 7
No.19 藤江和子 講演会
「建築とともに考える家具」
工学院大学では、2011年4月の「建築学部」開設以来、一流のプロフェッショナルにお話しいただくレクチャーシリーズを開催しています。
第19回は藤江和子氏をお迎えします。
参加費無料でどなたでもご来場いただけます。奮ってご参加ください。
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開催日時 | 2016年6月10日(金) 19:20 -20:50(開場19:00)※終了しました |
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講演テーマ | 「建築とともに考える家具」 | |
会場 | 工学院大学新宿キャンパス 3階 アーバンテックホール(アクセスマップはこちら) | |
定員 | 300名(事前申込による先着順) | |
入場料 | 無料 | |
講演者 | 藤江和子
Kazuko Fujie (藤江和子アトリエ) ![]() - プロフィール - 富山県生まれ。 - 主な作品 - 1994年 リアスアーク美術館 - 主な受賞 - 1989年 日本インテリアデザイナー協会/協会賞 |
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ナビゲーター | 澤岡 清秀 Kiyohide Sawaoka(工学院大学建築学部建築デザイン学科教授) |
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主催 |
工学院大学 | |
お問合せ先 |
工学院大学 建築学部開設記念講演会事務局 電話番号:03-3340-0140 メール:infokenchiku●cc.kogakuin.ac.jp(●を@に直して送信してください) |

私が家具デザイナーとしてこれまでどういう仕事をしてきたのか。この分野で若い人たちがあとに続いてくれることを願って今日は話したいと思います。家具のデザインと言っても様々な種類がありますが、私は建築の空間に来る人のために家具をデザインしています。
建築と周辺環境との関係
建築家の槇文彦さんとは、初期のころから非常に多くのプロジェクトで一緒に仕事をしています。「富山国際会議場」(1999年/建築設計:槇総合計画事務所)では、閉じられた会議場とつながるホワイエ空間がその周辺のまちに対して開かれるようにカーペットと長いベンチをデザインしました。カーペットや合板の規格単位である3mmを意識して、3mm単位でデザインを考えています。
長崎市の「福砂屋松が枝店」(2003年/建築設計:中村亨一設計室)では、地元の建築家とコラボレーションしました。新鮮なカステラのイメージを表現するために、モアレのような空間が人の動きに合わせて変化することで常に生きた空間を表現しています。ここでは建築の内と外を一体化させることで、建築家とインテリアデザイナーの境目がなくなり、建築と家具デザインの境目もなくなっていきました。
学生たちへのメッセージ
工学院大学八王子キャンパスの「Cキューブ」(1999年/建築設計:澤岡清秀)と「スチューデントセンター」(2008年/建築設計:山本・堀アーキテクツ)の家具をデザインしました。Cキューブでは、大きなテーブルを動かないように固定することで、その場を不動の空間にしましたが、それを大学側に理解してもらうのが大変でした。
スチューデントセンターでは、コンクリートやガラス、FRP、エキスパンドメタル、ガルバリウム鋼板など、あらゆる材料を使ってデザインをしました。そうすることで、学生たちが様々な材料に触れることができます。また、色々なかたちのテーブルを用意することによって、様々な学生の集まり方や場づくりができます。学生たちへのメッセージとしてデザインしました。
本棚に視線を通す隙間をつくる
近年、図書館系の仕事が続いているのですが、長野県の「茅野市民館」(2005年/建築設計:古谷誠章・スタジオナスカ)はそのきっかけになった仕事です。茅野駅からつながる細長い空間を市の図書館の分館として使えるようにデザインしました。茅野駅と市民館をつなげることで、人々が自由に使える居場所をつくり、そこで周辺の情報も得られるような空間にするという提案です。
幅が狭く細長い空間ですが、ガラスで囲まれているため、まわりには茅野の風景が広がっています。図書館なので本棚が必要ですが、できるだけ視線を通したいので、人の目線の高さに本が置けない隙間をたくさんつくり、本棚の背板もパンチングしています。5mm厚の鉄板を使って本棚を薄くシンプルにして、ミリ単位の細かい設計を行いました。
建築と環境を生かす本棚のレイアウト
「多摩美術大学図書館」(2007年/建築設計:伊東豊雄建築設計事務所)は、たくさんの曲線やアーチで構成される非常に不思議な空間です。この空間の中に必要な30万冊分の本棚を普通に配置すると、踏み台に乗らないと手が届かないような高さの本棚が並ぶことになります。本棚によって視線が切られてしまうと、素敵な建築空間の良さが感じられなくなります。そこで、建築のアーチの美しい連続が見え、外の風景も見えるように、本棚の高さを視線が通る1400mm以下にして、模型をつくってレイアウトを考えました。
曲線の本棚を効率良くつくるために、曲率のパターンを整理していきました。実物のモックアップをつくり、荷重もチェックしました。本棚は18mmのアルミハニカムを使って、薄く仕上げ・トいます。また、人の肌に触れる机などは木質系の仕上げにして、学生が素材や触覚を感じられるようにしました。
本棚を渦巻き状に配置
台湾の「台湾大学社会科学院辜振甫先生記念図書館」(2014年/建築設計:伊東豊雄建築設計事務所)では、多摩美の図書館と同じくらいの面積の中に、より多くの本を収蔵しなければなりませんでした。88本の細い柱が立ち並ぶワンルームの広い空間だったので、ここでも見通しの良さが重要でした。本棚をできるだけ低くおさえつつ、大量の本を入れるという課題に対して、模型をつくって考えていきました。本棚の配置のパターンについて膨大な検討を重ね、渦巻き状の配置を採用しました。
本棚は8段と4段の高さのものをつくりました。ほとんど目線が通る4段の高さで、ところどころ8段の高い本棚を置くことで、この空間全体に空気の流れをつくっています。また、点在している柱の密度が違うので、書架と書架の間にリラックスしてとどまれる場所をつくりました。
耐火性能のある家具のデザイン
「みんなの森 ぎふメディアコスモス」(2015年/建築設計:伊東豊雄建築設計事務所)では、屋根が木造だったため、家具についても耐火性能を求められました。最初は木で本棚をつくるイメージだったのですが、スチールでも耐火性能を満たせないので、プレキャストコンクリートの本棚を並べていく設計に変えました。既製の家具がほとんど使えなかったので、耐火性能のある家具のデザインを行いました。靴を脱いでゆっくり過ごせるリビングルームのような場所として、大きな籐編みのソファをつくりました。本物の籐は燃えてしまうので、人工籐を使っています。内側と外側に座面があり、内側は非常にゆったりとさせているので、来た人は実際に靴を脱いでくつろいでいます。
天井からぶら下がっている「グローブ」は、室内の環境づくりを調整する役割を担います。床から心地良い風が出て、上のグローブに集められて、夏は熱を外に逃がします。籐編みのソファの隙間からも緩やかな気流を感じることができます。
最近の仕事
台湾の「台中国家歌劇院」(2016年完成予定/建築設計:伊東豊雄建築設計事務所)は、内と外が入れ替わったような非常に不思議な空間です。模型から図面を読み取り、空間のありようを確認しながら、家具の配置を様々に検討していきました。模型をつくって視線の抜けなどをチェックしながら、どこにどういう家具があったら良いのか、居場所を模索しました。劇場の椅子は型をつくって、ふたつの劇場でそれぞれ違う布を使用しています。屋上にも家具をつくりました。
メキシコの「バロックミュージアム・プエブラ」(2016年/建築設計:伊東豊雄建築設計事務所)では、建築と同じゆらぎを感じられるように家具をつくりました。家具の仕上げの張地は、簡単なイメージデザインだけを渡して、地元の人たちの手と感覚で仕上げてもらいました。
質疑応答
──家具のコンセプトと建築全体のコンセプトをどうすり合わせているのですか?
私は建築家のためではなく、あくまで利用する人々のためにデザインをしています。ただし、家具と建築が釣り合わない空間は居心地が悪いので、そうならないために建築家の考えを最低限理解する必要はあると思っています。
──規格サイズを超える家具をつくる場合、構造的な検証などを行っていますか?
構造家の木村俊彦先生に「家具は構造計算しない方が良い。構造計算をするとつくれなくなる。実際につくってみればわかる」と言われて、構造計算をしなくて良いという確信がもてました。実際につくれない場合は、模型で強度を検証します。